Brewtle Library 『洋書から辿る、紅茶の歴史』
Vol.1 葉が、水に落ちた日。
紅茶の歴史を調べていると、
最初に少し驚かされることがあります。
それは、茶が最初から“楽しむための飲み物”ではなかったということです。
現在、私たちは紅茶を、
朝の一杯として
気分転換として
リラックスする時間として楽しんでいます。
けれど古代中国では、茶はもっと薬草に近い存在でした。

お茶の始まりとしてよく知られているのが、中国に伝わる「神農(しんのう)」の伝説です。紀元前2737年頃、薬草に詳しかった神農という皇帝が、木の下で湯を沸かしていたところ、一枚の葉が偶然その中へ落ちました。
その湯を口にすると、香りが良く、気分がすっきりした。
これが、お茶の始まりとして語られています。
もちろん、この話が本当にあったのかは分かりません。ただ、中国でお茶が非常に古くから飲まれていたことは、さまざまな記録から分かっています。
当時の茶は、今の紅茶とはまったく違うものでした。
まだアフタヌーンティーも、ティーカップもありません。
英国式ミルクティーも存在していません。
飲まれていたのは、現在の緑茶に近い茶でした。
しかも、その目的は“味を楽しむ”ことより、
身体を整える
眠気を払う
集中力を高めるといった実用的なものだったのです。
古い中国の文献には、お茶について、
頭をすっきりさせる
疲れを和らげる
気持ちを落ち着かせるといった記述も残されています。
さらに面白いのは、「茶」という文字も、最初から特別な意味を持っていたわけではないことです。古代中国では、“茶”を表す言葉が、他の野草や薬草と近い意味で使われていた時代もありました。
つまり当時の茶は、まだ“文化”ではなく、自然の中にある植物のひとつだったのです。けれど時代が進むにつれて、人々はその葉に特別な価値を見出していきます。
茶は少しずつ、
薬から嗜好品へ
実用品から文化へ変わっていきました。
そして後に、その小さな葉は中国を飛び出し、海を渡り、世界中へ広がっていくことになります。イギリスのアフタヌーンティーも、ティールーム文化も、まだずっと先の話です。
けれど、その長い歴史の始まりは、とても静かなものでした。
一枚の葉が、水に落ちた日。
紅茶の歴史は、そこから始まったのかもしれません。
